ケーススタディ -台湾における社会的投資-

ソーシャルバリュージャパンでは、2020年2月から3月、笹川平和財団の委託調査事業として、アジアにおけるインパクト投資の事例調査を行いました。こちらでは、本調査の中で得られた知見から、台湾におけるインパクト投資の事例を紹介します。

  • 対象地域: 台湾
    課題領域: 持続可能な生活、地域活性化、教育革新、医療
    活水影響力投資は、元デロイトパートナーの陳一強(Ray Chen)氏が2014年に設立した台湾初、かつ最大のインパクト投資ファンド。4つのファンドを有し、約90の投資家の出資により、3億台湾ドル以上投資実績がある。
  • 使命
    供給側であるインパクト投資家と需要側の社会起業家を結びつけ、社会的に革新的な企業(Profit-with-purpose Businesses)へ投資を促進、スケーラビリティ、社会的インパクトを強化するために協力することを使命とし、国連開発計画(UNDP)が提唱する「インパクト投資(測定可能な社会的・環境的影響を与えながら、財務的リターンを生み出す企業、組織、ファンドへの投資)」を追求。
  • 投資分野
    「持続可能な生活」「地方創生」「教育イノベーション」「医療」の4つの分野で、初期段階のソーシャルイノベーション企業(プレAラウンド)への投資が中心。パートナーや慈善団体、政府機関などのルートや機会を通じて投資先候補を発掘している。
  • 成功要件
    社会的イノベーション起業の成功要件として、3つを挙げている。1つ目は「独自の価値」で、製品やサービスに十分な差別化ができているか、 2つ目は「コアコンピタンス」つまりノウハウがあるかどうか、3つ目は「チームの実行力」があるかどうかであり、この3つを結び付けることが重要だとしている。また、主な課題は、規模の拡大と持続性だと指摘している。
  • 投資・支援体制
    活水影響力投資は、通常のエンジェル・ファンドとは異なり、ペイシェント・キャピタルと投資後の支援を提供する。「伴走し、共に成長する」の投資哲学を実行すべく、第一段階において、できるだけ多くの株主に取締役や監査役を担ってもらい、投資先をサポート。第二段階で、マーケティング、経営、財務、法務などプロジェクトの日常的な管理を行う専任スタッフを雇用し、必要に応じてプロの株主のチームを顧問としてプロジェクトを支援するという2段階の支援体制を採っている。
  • 実績
    これまでに活水影響力投資は、台湾で最も成功した社会起業である「鮮乳坊」「奇力愛」「綠藤生機」など、約14件の投資を行い、3億台湾ドル以上の投資実績を有する。
  • 報告書
    四半期ごとに報告書を掲載。ホームページからダウンロード可。
  • その他活動
    社会的企業の流れであるNTU Venture(台湾大学に設置された創業センター)等と協力し、アクセラレーションプログラムの認知向上の取組やイベントの開催も行っている。
  • 対象地域: 台湾
    課題領域: 制限は特にないが、SDGs 3・5・12・17、すなわち、健康と福祉、ジェンダーの平等、責任ある消費と生産、
    目標達成のためのパートナーシップに焦点を当てている。
    社會福祉及社會企業公益信託循環基金(SERT)は、官民の協力によって2015年設立。 台北金融大樓股份有限公司(Taipei101)の前会長である宋文琪氏が委託者に、KGI銀行が受託者に任命、前行政院長の陳崇氏、KPMG法律事務所の于吉龍氏がファンドの監督者に任命された。信頼性を確保し、幅広いステークホルダーを巻き込むため、ファンドとは別にアドバイザリー委員会(ガバナンス・チーム)を設置している。アドバイザリー委員会は四半期ごとに開催、基金のガバナンスや関連する案件の検討を行う。
  • 目標
    SERTは、事業目標を3つの時期に分けて設定。2022年から2024年は最終段階とし、これまでの成功モデルをもとに、資源・資本を投入し財務サイクルを回すとしている。
  • 仕組み
    SERTは、様々な分野における社会的企業の発展に長年にわたり関心を持ち、具体的な投資や、ネットワークを通じた支援を提供している。SERTは、ターゲティングと多様化を重視ながら、協賛、寄付、相談、投資、その他具体的な支援を通じて、非営利団体や社会的事業者をサポート。投資先が成功し利益を得たら、その資金を回収するだけでなく、得られた経験を継承し、他の社会的企業を支援する。こうして、持続可能なサイクルの正のエネルギーを十分に発揮し、地域を活気と豊かさにすることを目指す。
  • 戦略的イニシアティブとインパクトモデルマップ
    SERTは5つの戦略的イニシアティブと、インパクトモデルを掲げている。 3つの戦略「投資スポンサー」「社会的企業の発展」「人材育成」を通じて、社会起業家団体や起業家を支援。企業、投資家、一般市民などのステークホルダーをつなぐ「Good Togetherプロジェクト」や「インターナショナル・リンケージ」を通じて、社会・環境問題の解決に向け、資源の需要と供給の連携を促進する。
  • 投資前評価
    投資に先立ち、SERTは、「社会的インパクト」、「ビジネスモデル」、「財務的持続可能性」、「組織経営」、「リスク管理」の 5 つの分野とそれぞれの投資対象の社会的インパクトの可能性と経営状況を調査。社会的企業が大きな社会課題の解決に軸足を置き、革新的なビジネスモデルでインパクトを与える可能性が高い場合のみ、投資対象とする。
  • 投資後のトラッキング
    投資先は半期報告書をSERTに提出。SERTは、定期的な会合を通じて社会的企業の経営全般を把握し、成長とインパクト拡大に向けて適時アドバイスとフィードバックを提供。
  • インパクト実績
    投資・スポンサー総額 16,750,000台湾ドル
    社会イノベーション組織への支援 22件
    アドバイザリー 110件
    社会起業家への奨学金 10人
    ネットワークづくり、メディア報道
  • 投資実績
    これまでに5件の投資を実行。
    ・鳴醫股份有限公司
    都市部と農村部の深刻な医療資源の格差是正に挑戦する遠隔医療サービスプラットフォームを提供。人々に健康情報を提供し、オンライン相談などの専門的なサービスを提供し、必要に応じて都市部の病院とつなぐサービスを展開。
    ・社會網絡股份有限公司
    NPOが解決したい社会問題を解決するための正当な公益的資金調達プロジェクトの広報を支援する公共サービスプラットフォーム「NPOChannel」を立ち上げ「困っている人」と「欲しい人」をつなぎ、ソーシャルグッドの力を結集して、困っている人を支援するためのプラットフォーム。 ストーリー、写真、動画を組み合わせた台湾初の資金調達プラットフォームで、公共サービス機関がオンラインで資金調達を行うためのシンプルかつ直接的な方法を提供
  • 報告
    3年に一度インパクト報告書を発行。
    これまでに「2016-2018年インパクト報告書」と「2016-2021年インパクト報告書」を発行。ホームページからダウンロード可。
  • 対象地域: 台湾
    課題領域: 不利な立場にあるグループへのサービス、環境ソリューション
    守護天使キャピタル・グループは、WI Harper VC(中經合創投公司)の元CEOで、現在、守護天使キャピタル・グループCEOである林銘遠(ピーター・リン)氏により2014年に設立された。
  • チーム構成
    守護天使キャピタル・グループは、ベンチャーキャピタル、インターネット技術、国際マーケティング・流通、公共サービス開発、両岸交流に携わってきた上級幹部と起業家によって構成されている。
  • 使命
    守護天使の使命は、人々が変化をもたらすことを支援すること、私たちの情熱は、新興企業や慈善団体の発展を支援すること、私たちの専門はエンジェル投資であり、社会的インパクト投資に焦点を当てることです。
  • ビジョン
    ベンチャーキャピタル、アントレプレナーシップ、クリエイティビティの相互作用、循環、拡散によるポジティブな影響を通じて、共に生きる人々の幸福を増進する。
  • 目的
    専門知識、経験、人脈、資本を通じ、使命感、勇気、誠実さ、そして確固たる足場を持った起業家に貢献し、起業期の困難を乗り越えて、成熟した安定した持続可能な企業へと伴走する。
  • 投資哲学
    人々の繁栄を支援することを基本理念とし、創造的で、夢を持ち、誠実な起業家を守るために、起業経験とビジネス経験、業界ネットワーク、エンジェルキャピタルを提供し、共有し、コミュニケーションし、我慢することを望む起業家に同行し、共に繁栄と成功を手に入れることを目的とする。
  • 投資戦略
    投資分野: ICT、文化・クリエイティブ、観光・レジャー、伝統的な高成長、社会・環境ソリューション
    投資ステージ: 立ち上げ・拡大期(創業後0~2年程度)
    投資額: 100万台湾ドル〜1,000万台湾ドル
    投資対象地域: 台湾を中心として、中国本土、香港、東南アジア
  • チーム実績
    ベンチャーキャピタルのバックグラウンドを強く持つ唯一のインパクト投資ファンド。
    これまでに25%以上の内部収益率(IRR)を達成し、50社以上の企業の上場等を支援。よく知られている案件と投資収益は以下の通り。DivX(24倍)、Gamania(16倍)、3S(12倍)、Macroblock(8.7倍)、TXC(8.5倍)、ICSI(8倍)、Silicon Motion(6.5倍)、Liteon IT(4倍)、Univacco Tech(3.7倍)等々。
  • 社会的インパクト投資実績
    「多扶事業股份有限公司」
    移動に不自由があるが障害者手帳を持っていない人に対して、医療、旅行、家族の食事会など、さまざまなニーズに応じて送迎サービスを提供。
    「究心公益科技股份有限公司」
    国連やアジア開発銀行、赤十字、日本の関連救援機関など、世界の災害救援体制やボランティアの国際ネットワークと情報システムで連携・連動。ICTを使って、世界各地でハザードマップの作成や避難訓練などの情報を集約し、災害時の救命につなげる。
    「全球社會創新股份有限公司」
    テクノロジーで恵まれない人々の支援を目指し、村のリーダーがより現代的で便利な方法で村民に奉仕できる「モバイル村」アプリを開発。3800の村をカバーする台湾最大のデジタル村落慈善事業プラットフォームを創設、貧困家庭の支援活動などを行っている。
    「晉弘科技股份有限公司」
    遠隔診療機器や検査を提供。農村部などの医療資源の少ない地域に目、耳、鼻、喉、皮膚を感知できる五感鏡を提供し、都市の大病院とつなぐ。
  • 対象地域: 台湾
    課題領域: 持続可能な生活
    樹冠影響力投資股份有限公司は、台湾経済研究院の元研究員で、活水影響力投資の共同創業者である楊家彥(Steven Yang)博士によって設立された。持続可能な環境と人間中心の社会をテーマとした、デジタルメディア「樹冠生活」では、台湾発の持続可能な生活についての提案が取り上げられている。持続可能な農業、教育イノベーション、柔軟な職場、高齢者の楽しい生活、循環経済、透明な社会などのテーマとし、多くの人々の交流、変革のエネルギーの蓄積を目指している。
  • インパクト投資先支援と体制
    樹冠影響力投資股份有限公司では、インパクト投資の評価は、第一に運用・財務の持続可能性(Financial Sustainability)、第二に社会的インパクト(Social Impact)、第三にチーム構成(Team)の3つに着目。 イノベーション変革チームの支援として、インパクト投資を行うだけでなく、デジタルメディア「樹冠生活」で取り上げたり、「樹冠学校」でトレーニング、コミュニティ、リソースマッチングを開始することで、台湾全土で持続可能な事業を強化し、学べる機会を提供したり、全面的な支援を行っている。 また、コアアドバイザリーボードとして、イノベーション投資、ビジネス発展、デジタル社会、循環型経済など9人の専門家をアドバイザーとしてのサポート体制も整えている。
  • 投資実績
    2019年以降、以下の6つの投資を実行
    「島內散步」
    台湾をサステナブルな旅のリーディングブランドにし、体験や探索を通して台湾の文化的な意味をより深く知り、持続可能な地域開発を推進し、国連の持続可能な開発目標SDGsを踏襲する。
    「甘樂文創」
    地方創生とまちおこし、最新のイノベーションを実践し、質の高いサービスと製品の提供に努め、持続可能なビジネスを創造し、すべてのステークホルダーに利益をもたらす、文化・創造産業と社会的企業のモデルとなることを目指す。
    「瑪帛科技」
    台湾におけるシニア向け情報システムの専門インテグレーター。高齢者の生活に便利さと楽しさを与え、より社会とのつながりや心の支えを得る、新しい実用的なエイジングサービスを創造。
    「有本股份有限公司」
    地域やコミュニティと一体となったユニバーサルレジデンスとして設計されたサービス付き高齢者住宅を提供。人が健やかに年を重ねることのできる住まいづくりを目指し、身体的・精神的な障害を持つ人々のニーズに応える。
    「酸女孩」
    自然で食品本来の味を引き出した無添加製品と、旬の食材を活かした四季の料理教室で、安心安全の食を提供。
    「奇力愛」
    看護師や栄養士の監修のもと、患者の体調等に合わせて作られた食事を提供する配食サービス。化学療法中や術後のがん患者だけでなく、食事療法が必要な患者や疾病予防を兼ねたシニア全般に対しても、きめ細やかな食事を提供。
  • 対象地域: 北京、上海、台湾、香港
    課題領域: 健康、教育、環境、文化
    樹生管理諮詢(Better Partners)は、CEOであり、AVPNのHead of Chinaを務める葉律志(Mark Yeh)氏が2011年に設立。インキュベーション、アドバイザリー、投資の三つの方式でスタートアップを支援するとしている。 トレーニングプログラムに重点を置き、学校など教育機関でリソースを提供、人材育成を図る。また、インパクト投資の記事やイベントなどの情報を発信し、こうしたプラットフォームを通じて、川上から川下までのリソースをつなげ、持続可能な経営という企業文化の流れを創出することを目指している。 支援対象は、中華圏(中国、香港、マカオ、台湾)における創業期のインパクト起業家で、分野はヘルスケア、環境、ライフスタイル・文化セクター。
  • 対象地域: 台湾
    課題領域: 教育、社会的イノベーション
    世界第3位のファブレス半導体企業であるメディアテック社が2001年に設立した、科学技術教育に特化した財団。10年以上にわたり、技術的な才能の発掘に積極的に取り組み、積極的な社会参加やチャリティー支援。「科学技術の礎づくり」「社会革新」「人材育成」「慈善活動と地域貢献」の4つの行動軸を通じて、過去10年間で総額15億台湾ドルを投資し、台湾の教育、産業発展、社会共栄の推進に貢献。
  • 4つの行動軸
    「科学技術の礎づくり」
    戦略を3つのレベルとし、教材プラットフォームを提供するMediaTek LinkIt、IoT教育カリキュラム開発、教材共有を目指す「都市型」、補助金や奨学金制度を充実させる「学校型」、プラットフォームづくりや技術系キャンプへの協賛・支援を行う「人材型」の3つの戦略レベルを通じて活動。
    「社会革新」
    自社のコアコンピタンスを地域と共有し、政府、地域、学界と連携してテクノロジーとリソースを積極的に提供。社会への利益最大化を目指し、地方自治体や大学と協力した疫病予防プログラムや「スマートホームタウン」プロジェクトを推進。
    「人材育成」
    15年以上にわたり、9億台湾ドルを投じて500以上のプロジェクトを支援し、3つの大学(国立台湾大学、国立交通大学、国立清華大学)とともにイノベーションセンターを設立、500人以上の修士号および博士号の取得を支援。
    「慈善活動と地域貢献」
    国内外において、子どもや高齢者、難民など困難な状況に置かれている人たちをサポートするプロジェクトを実施。全世界で推定37,000人が直接的、間接的に受益。
  • 対象地域: 台湾
    課題領域: ヘルスケア、教育、農業、社会福祉
    永齡基金會は、鴻海(ホンハイ)科技集団の社長、郭台銘(Terry Gou)氏によって2000年に設立。健康、教育、慈善の3つの財団法人を有し、様々な支援を行っている。
  • 永齡健康基金會
    郭台銘氏のがん治療進展に対する強い思いから2007年設立。台湾を代表する医療機関である台湾大学病院を寄付先として、台湾大学がんセンター、生物医学工学センター、細胞治療センター、放射線科学・陽子線治療センターなどを建設し、総額250億ドルの寄付を行った。がん治療を中心とした「台湾大学生物医学キャンパス」を構築、世界レベルのがん治療施設を目指す。
  • 永齡教育基金會
    家庭環境などの理由から生じる教育格差の是正を目指し、2007年に永齡台湾希望小学校(学校法人ではなく、小学生を対象に個別指導サービスを提供するプログラム)が設立され、現在全国15か所に拠点をもつ。これまで12億台湾ドル以上を支援、8万人以上の生徒を育成した他、2万人以上の教員の養成も行った。
  • 永齡慈善基金會
    活動範囲は多岐にわたり、災害支援、有機農場を運営、保育施設や高齢者施設への支援(200万台湾ドル後援)、社会福祉団体の革新的なプロジェクトのサポート(3年間で5億台湾ドル)の他、製品の寄付も行っている。